遠くローマまで旅した少年たちが見たものは:若桑みどり『クアトロ・ラガッツィ』
わた:冒頭のプロローグがすごくいいんだよね。
あめ:ミケランジェロを研究していた著者がある夜、こんな内なる声を聞く。「東洋の女であるおまえにとって、西洋の男であるミケランジェロが何だというのか?」
わた:これはね、一緒にするなんておこがましいけど、異国に住んでいるとなんとなくわかる感覚なんだよね。異文化を理解する限界っていうかね。
あめ:4人の少年がローマに向け日本を離れた時は日本でのキリシタン布教の絶頂期で、時の権力者は織田信長。
わた:しかし4人が日本を離れている間に、信長も彼らをローマに送った九州のキリシタン大名・大友宗麟・大村純忠等も亡くなり、秀吉による禁教が始まりつつあった。
あめ:そんな運命に直面した彼らの内面について知りたかったけど、禁教後のキリスト教徒の記録は当然残っていないし、結局は事実しかわからない。
わた:がっつりと綴った書評は「本が好き!」にあげたのでよかったらお読みください。
あめ:ここでは大筋から外れているけど、印象に残ったところなどを。
わた:「日本では貧困は天罰だとされていた」ってあるね。
あめ:日本人はみな親切な人々だと思うんだけど、ある一線を越えるとすっと関心を引いて冷酷になるのは、この「天罰」というか「因果応報」の考えからなのかなあと。現代に見られる特徴ではなく、こんな昔から変わらないんだなって。
わた:星野博美さんも『みんな彗星を見ていた』の中で当時の宣教師たちが記録した日本人の特徴は今とほとんど変わらないと何度も感心していたね。
あめ:欧州にいると町中のホームレスにコーヒーを差し入れたりお金を恵んだりするひとが結構いるんだよね。国民性だと思っていたけど実は信仰する宗教からのものなのかなと思った。
わた:あとキリスト教徒にとっては霊魂は永遠だから死後に名誉を回復するというのは大きな希望だったって。
あめ:ずっと昔に亡くなった人が聖者になったり異端宣告を撤回されたりするのを聞いてもよくわからなかったけど、そういうことだったんだね。
わた:使節団の立案者であるヴァリニャーノをはじめ、宣教師は本当に優秀な人ばかり。異国の文化や政情を的確にとらえ、それを自分たちの布教と絡めて息の長い方針をたてることができる。
あめ:ヴァリニャーノ、山師みたいな人かと思ってんたんだけど(笑)
わた:ヴァリニャーノを登場させる章のタイトルは「違いのわかる男」(笑)。ローマ教皇とスペイン・ポルトガル王から布教へのさらなる援助を引き出すために、東の果てから8年もかけて日本から少年使節をローマに送るなんて考えつく?
あめ:ただ「お金を送って下さい!」じゃないんだよね。日本での布教の成果を見せ、それによって様々な協力を教会から引き出そうとする。抽象的で壮大な計画。
わた:ほか「日本で非常に重要な事項について交渉するときは、必ず第三者を通すこと。日本人は直接交渉をけっして許さない」という記録も残している。
あめ:こんな日本人でも意識していない、目に見えない複雑なことを的確に見抜くことができるなんてね。宣教師たちはただ神を信じるだけの純粋なだけの人々ではなかった。
わた:日本での布教を支えるために生糸貿易をするしかないと判断し、実際に資金を貿易で運用し増やしている。
あめ:貿易にも通じて、まさに最先端の人々だったんだね。
わた:開国・明治維新の歴史を知っているから西欧の優勢を無条件に認めてしまうけど、この16世紀の日本人たちは外国に対する劣等感はまったくなかった。
あめ:南蛮人というのは南に住む野蛮人。
わた:宣教師たちも日本人はみなよく訓練された屈強な戦士だと恐れている。
あめ:イエスズ会は貴族出身者が多いから、日本の武士の精神と親和性のある騎士道精神を持っていて、本能的に武士が好きだったともあるね。
わた:根っからの侵略者であるスペインは日本に来てはならない、とヴァリニャーノ師はおっしゃっています!
あめ:ありがとう!パードレ・ヴァリニャーノ!
わた:『日本史』を書いたフロイスはポルトガル人だったんだね。
あめ:ポルトガル人は悲観的で、イタリア人に比べるとやはり差別的だったと著者は言っている。
わた:ポルトガル人宣教師たちは秀吉への対応を誤り、結果として伴天連追放令につながってしまった。
あめ:著者が西洋の文化について学んだ人だから、西洋と日本、両方に目配りが効いて文化論としても非常に面白かったね。
わた:フロイスの『日本史』の解説もね、宣教師たちのこういった記述は信憑性があるとか。素人がただ読んでもわからない当時のヨーロッパ人の考え方がわかってね、とても面白かった。
あめ:信長・秀吉の宣教師との駆け引きも、当時の宣教師の資料を元に細かく再現されている。信長が初めて「深い思慮をもって」宣教師とたちと会った時も、自分が宣教師たちに会うことによって生じる影響を計算して会っている。
わた:進物品も一番根が張らない帽子を選んだりしてね。
あめ:秀吉もポルトガル人宣教師をうまく誘導して彼らがキリシタン大名に対し大きな影響力を持ち彼らを戦争に動員することもできる事実を言外に確認した。
わた:権力者というのは本当にすごいものだね。
あめ:なぜタイトルがイタリア語の『クワトロ・ラガッツィ』なんだろうと思ったけど、4人をローマへ連れて行った宣教師はイタリア人。
わた:スペイン・ホルトガル宣教師による「上からの布教」を日本の文化や長所を生かした布教方針に変えていったのはヴァリニャーノをはじめとするイタリア人宣教師たち。
あめ:少年たちは旅の道中ではイタリア語で会話をしたんだろうね。
わた:船の上で 釣りに明け暮れる少年たちに宣教師が言った言葉で物語は終わる。
あめ:「クワトロ・ラガッツィ!スー、アル・ラヴォーロ!(4人の少年よ! さあ勉強だ!)」
わた:きっと彼らを取り囲んでいた海はいっぱいの日差しで輝いていただろうね。
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