わた☆あめ 脳内読書会

読書ブログです。ヨーロッパより帰国しました(コロナのばか~!)

恋、家族、友情、祖国、幽霊、そして殺人。娯楽小説の王道:『流』

台湾を舞台にした外省人一家の物語。
波乱万丈な人生を送る祖父(そもそも中国から台湾に渡った人で波乱万丈でない人がいるだろうか)、彼は台湾のある地で現地の人々を大量に殺戮したという過去があるのだが、まったくそれを気にすることなく暮らしている。周りの人々もそれは同様で、「あれは戦争だったんだ! わしがおまえの家族を殺して、おまえがわしの家族を殺す。そんな時代だったんだ」とお互いを乱暴な口調で気遣いながら、いつか大陸に帰るという夢を抱いて台湾での日々を過ごしている。

 

その祖父が殺される。

 

これから歴史に絡んだミステリーが始まるわけねと思っていると、そうは進まず。
高校生の主人公は替え玉入試で進学校を退学になったり、不良たちと大喧嘩をしたり・・・女性の幽霊を助けたり、狐の神様から啓示を受けたり、幼馴染みと運命的な恋に落ちたりする。
そんな青春の真っただ中で、時折、祖父の死の謎が影を差す。風呂の中で溺死をさせられた祖父。気性も腕っぷしも強い祖父が無抵抗な状態で手足を縛られ水に沈められたことが主人公はどうしても信じられない。
あの祖父が無抵抗で命を差し出すような相手は誰なのか・・・。
そして祖父が大陸からの相棒である拳銃と共に大切に保管していた写真、強張った顔でカメラを見つめる王一家の写真は何を意味するのか。

 

物語後半は中年となった主人公が時を行き来しながら物語を進めていく。その合間合間に、彼の幸福とその挫折が垣間見え、祖父の死の真相と共に人の一生の、国の歴史の抗うことができない大きな流れが感じられる。

 

中年ともなると人生成功ばかりではないけれど、ラストの一行は主人公の、そしてあの時代の青春が煌めいていて、とてもしびれる。感想の最後に引用したいぐらいきまっている一文なのだけど、それは野暮ってもの。ぜひ実際に読んでその煌めきを堪能してみてください。

 

流 (講談社文庫)

流 (講談社文庫)

  • 作者:東山彰良
  • 発売日: 2017/07/14
  • メディア: Kindle版
 

 

『流』の感想、レビュー(あられさんの書評)【本が好き!】

 

 

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