わた☆あめ 脳内読書会

読書ブログです。ヨーロッパより帰国しました(コロナのばか~!)

お前たちは道具がなければこの山を登れないのか? と平安時代のファーストクライマーは言った:『剱岳 線の記』

明治時代、日本国土の測量を推進するために、当時未踏峰だった北アルプスの剱岳に挑んだ日本陸軍の測量部・柴崎隊。彼らが山頂に辿り着くと、そこには古代の仏具が置かれていた。新田次郎の『劒岳〈点の記〉』にも出てくる有名なエピソードだ。
著者はこの仏具を置いたのは誰なのか、現代の装備でも登頂するのが難しい剱岳をどのルートを使ってどのように登ったのか、という謎を探っていく。

『ロビンソン・クルーソーを探して』もそうだったけれど、著者はひたすら文献に当たり、関係者をひとりひとり尋ねて疑問をぶつける。場所にも可能であれば何度も足を運ぶ。愚直なまでに自分と歴史の対話を続ける。

とにかく人に会い続け、関係が感じられる場所を訪れ続ける。その中のひとつ、円念寺山経塚を訪れる場面がとても印象的だ。山奥のある一か所にびっしりと石が敷き詰められている。明らかに人為的に造られた場所で規則正しい配列で五つほどの石を円形に組み、中心部の穴に経巻が入った経筒が納められていたらしい。その数、二十四基。

そこから剱岳を遥拝した古の人々がその山頂に仏具を置いたと著者は直感する。その登頂ルートは遥拝のルートに重なるだろう。

剱岳はロック・クライミングの技術が必要な登頂ルートもあるそうだ。そこまで厳しくなくても、転落防止のため鎖を這わせある箇所が最も一般的な登山ルートでもある。
著者はお経が埋められていた遺跡からの遥拝ルートを基に古の登頂ルートを探り当てる。それは現在のルートとは異なる、ある意味常識離れしたルートになった。

今のような装備もなくてどのようにあの厳しい山に登頂したのだろうと思った浅はかさが恥ずかしい。太古の時代から人類は身の回りにあるものと自分の肉体を使って生存を切り開いてきた。自分以外の誰かが作った道具に頼るという思考によってずいぶんと痩せ細ってしまった。

発見された仏具は今は富山県立立山博物館に所蔵されている。いつか見に行きたいものだ。

 

 

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山頂で発見された仏具

https://toyama-bunkaisan.jp/search/1578/ よりお借りしています)



 

剱岳 線の記 平安時代の初登頂ミステリーに挑む

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『剱岳 線の記 平安時代の初登頂ミステリーに挑む【Kindle】』の感想、レビュー(あられさんの書評)【本が好き!】

 

 

 

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