わた☆あめ 脳内読書会

読書ブログです。ヨーロッパより帰国しました(コロナのばか~!)

オーストラリアで生きることを選んだ少年はMasatoからMattになった:『Matt』

『Masato』の続編が『Matt』であると知って「真人、オーストラリアでうまくやっているんだな」と嬉しかった。
前作『Masato』ではオーストラリアで脱サラして新たに商売をするという父親と共にオーストラリアに残ることを選んだ真人。オーストラリアを、英語を選んだ真人に母親は「この国にあなたをとられた」と泣き日本へ帰る。
その母親から「まあくん」と呼ばれていた真人は今では自らMattと名乗るようになっている。
真人がオーストラリアに残ることを選んだのは父親の肩を持ったわけではもちろんなくて、オーストラリアの文化、そこで出会った人々、特に友人達と離れがたく日本ではなくオーストラリアで中学へ進むことを選んだ。

 

しかし物語はほろ苦い。
意気揚々と始めた父親の商売は軌道に乗らずに破綻、酒に逃げ半ばアル中になっている。
日本の会社を辞めてオーストラリアで商売をしていくことを選んだのに、最後の最後に日本人の伝手を使って仕事が何とかつながった時、「やっぱり頼りになるのは日本人だよなぁ」という言葉を口にして息子を激高させる。
その一方でオーストラリア女性と深い仲になり、挙句の果てには日本にいる真人の母と離婚すると言い出す。おやじ、何をしているのだ・・・。母と娘は日本、父親と息子はオーストラリア。距離だけが家族を隔てていたのにその分断がいよいよ決定的なものとなってしまう。
真人の友人達にも変化が訪れている。サッカーの才能に恵まれプロを目指していた親友ジェイクは「そろそろプランAのほかに、ブランBも考えておくべきなのかもな」と言い出し、そのプランBが年上のガールフレンドとの結婚だったりする。クローゼットの中に今でもテディベアを大切にしまってあるジェイクは三人の姉たちに溺愛されているからな・・・。そうくるか!と思いながらも妙に納得してしまったよ。

 

本作『Matt』で、真人はもう一人のMattと出会う。金髪、碧眼のMattは真人がぞっこんのガールフレンド・パリスと同様、典型的なオーストラリア人だ。
そのMattは太平洋戦争で日本と戦った祖父を持ち、履修が一緒のドラマのクラスで何かと真人に嫌がらせをする。それでも共に顧問のキャンベル先生の深い洞察に溢れた指導を受けながら、演じるというレッスンを通じて自分ではない他人への理解を深めていく。ジェイクといい、このMattといい、家族を、特に年老いたものたちを慈しむ姿勢は鮮やかな驚きを感じる。Mattの日本人嫌いは祖父への深い愛情によるものなのだ。ジェイクはそれを「じいさんから何かの病気をもらったようなもの」と言うけれど。

 

母国、移住先と複数の文化の中で育つ子供たちをサードカルチャーキッズというそうです。
華々しいと思われがちなサードカルチャーキッズの懸命な「もがき」が著者の柔らかく誠実な文章で描かれる。
異文化の海でもがきながらも、複合的な自己の在りかた、その曖昧さ、答えのなさを受け入れて異文化の海を浮上していく子供たちの姿は、本当に逞しくて眩しい。

 

オーストラリアの学校生活--多くの留学生を受け入れ、ハウスごとに点数を競っていく文化(ハリー・ポッターと同じだ)、どこか緩やかで自由な授業の履修の仕方、日本では馴染みのない授業科目など--が生き生きと描かれているのも本シリーズの大きな魅力の一つ。

 

 

Matt

Matt

  • 作者:岩城 けい
  • 発売日: 2018/10/05
  • メディア: 単行本
 

 

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Masato (集英社文庫)

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  • 作者:岩城 けい
  • 発売日: 2017/10/20
  • メディア: 文庫
 

 

『Matt (単行本)』の感想、レビュー(あられさんの書評)【本が好き!】

 

 

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