わた☆あめ 脳内読書会

読書ブログです。ヨーロッパより帰国しました(コロナのばか~!)

エボラ、出アフリカしてる!:『ホット・ゾーン エボラ・ウィスル制圧に命をかけた人々』

作家の橘玲さんのTwitterでのFinancial Timesのコロナデータ掲載・解説がとても分かりやすく、ずっとチェックさせてもらっている。
Financial Times作成の国別のグラフの画像を貼ってくれているのだけど、それが淡いベージュを背景に各国の数値がきれいなパステルカラーで示されていて、ロックダウン開始時点には星印、ジグザクしながら多くの線が右肩上がりを示し、色合いが美しいのでなんだか花火のようなのだけど、示すものは死者数であるそのグラフを空恐ろしい思いで毎日眺めていた。ある程度ウィスルが蔓延してしまうと、この花火の線は下降することはなく、空に向かって放たれた花火のように上昇していくのみ。

コロナウィスルが大流行するまで、ウィスルが目には見えないということを本当には理解していなかったなと思う。インフルエンザは流行時期が決まっているので「見えている」つもりになっていた。だけどコロナは本当にどこにいるのか分からない。まさに「私たちの町に何かがいる」。

この本で取り上げられているエボラ・ウィルスは、アフリカの森の中にいる(らしい)。エルゴン山にあるキタム洞窟はゾウがその壁に含まれる塩を食べにくるという巨大な洞窟で、その中に入った二人のヨーロッパ人(ひとりはデンマークの少年)が出血熱を発症した。
そのうちの一人のフランス人の発症経過を描写する本の冒頭は恐ろしい場面の連続。ナイロビ病院へ向かう飛行機の中で、そのモネと呼ばれる男性は著者の言うところの「爆発的症状」を示し(密室の飛行機の中で!)、病院の待合室でとうとう「崩壊」する。爆発だの崩壊だのとは暴力的な言葉だけれども、誇張なく本当にそうした症状が起こるのだ。

何よりも驚いたのが、この本の大半を占めるアメリカ・ワシントン近郊で発生したサルでのエボラ出血熱発症事例だ。私はエボラ出血熱はアフリカから出ていないと思っていたので、え、アメリカでエボラ? おまけに発症したサルがどこから来たかというと、アフリカではなくフィリピン・ミンダナオ島。出アフリカしている!!そして日本にも近い!

帰国に当たって空港でがっつりとした検疫を受けましたが、今まで空港での検疫といっても一種のルーチンというか念のための確認というイメージでしたが、それはたまたま世界が感染症的には「平和」であったからだけで、目に見えない「彼ら」を捕捉する本当に重要な作業なのだと本書を読んでも実感した。

とはいえテレビで大量に生産された恐怖を煽る情報も正確ではなく、各国にある感染症を扱う機関には現在、世界で確認されている感染症のリアルタイムで正確な情報があると考えるべきでしょう。そうした機関に正確な情報がなければ、一体どこにあるというのだろう。

この本の解説では岩田健太郎医師による現在のエボラ・ウィスルの状況がアップデートされていて、このワシントン近郊で発症したエボラ・ウィスルは人では発症しないタイプのものであったこと、現在はエボラ出血熱への効果的な治療薬が発明されつつありウィルスが制圧可能となりつつあることが示され、人間がウィスルに対抗しうる存在であることが理解できる。

下記はエボラ・ウィスルを発見したウィスル・ハンターの医師からの著者への言葉だが、この言葉をドキュメンタリー番組風に、そのウィスル・ハンターが暮らす雄大なモンタナの自然を背景に脳内に表示してみて、その対比に「おぞけをふるう」のがこの本の私のイメージだ。

 

 ブレストン殿
 首を揺すってこちらを威嚇するコブラの目を見つめる際の気持ちもそこに含まれているのでないかぎり、”魅了される”という言葉は、私がエボラに対して抱いている感情とは無縁です。”おぞけをふるう”という言葉はいかがですか?

 

文章も美しく読み物としても大変面白かった。

 

 

 

『ホット・ゾーン エボラ・ウイルス制圧に命を懸けた人々』の感想、レビュー(あられさんの書評)【本が好き!】

 

 

 参加しています。

にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
にほんブログ村