わた☆あめ 脳内読書会

読書ブログです。ヨーロッパより帰国しました(コロナのばか~!)

「資格」ではなく「場」の共有によるタテ社会--そうした社会であれば日本でなくても同調圧力や自粛警察は生まれる:『タテ社会の人間関係』

社会を成り立たせる構造として「資格」による社会と「場」による社会があるそうです。

 

資格による社会は横(同業者)のつながりが強く資格によって集団を移動することができます。
一方、場による社会は目に見える枠がないため、実質は烏合の衆です。組織を保つためにはその内部で結束を強化する必要があります。そのため構成員の相互接触が高まり、エモーショナルな関係が重視されます。

 

いう間でもないことですが、日本は後者の場による社会です。
資格と言った明確な基準がないため、絶えず「ウチ」「ヨソ」を意識。そうしないとずるずると枠がほどけ、社会構造は溶解してしまいます。
場による社会というのは日本に限ったものではないようですが、世界でも驚異的な日本の単一性がこの場による結束を強固でかつ息苦しいものにしているようです。

 

この「場」から社会構造を考えるというのはとても分かりやすく、今まで封建的だとか前近代的だと言われてきた日本での出来事のその理由がよく理解できます。例えば職業ではなく場である「会社」を重視したり、仕事ではなくて「人を抱える(雇う)」という意識が強かったりといったことの必然性が。
令和の今では、もっと資格で結びつく社会になっているでしょうか。少なくとも昭和・平成を振り返って見ると、この場による組織形成という見方はぴったり現実に合っていたように思います。

 

場による社会はその組織を超えた横の連携が育たず(横に連携すればもはや場は保てなくなってしまいます)、その代わりに上下関係に基づく社会で、場・組織との接触時間が長いことは重要かつ敬意を払われることで、年功序列なあり方に繋がります。
こうした中では場(会社)を移ることは自分の築いた資産をチャラにすることであり、場の結束を損ねることであり、個人にとっては利益よりも損失の方が大きく感じられたのでした。愛社精神ではなく。

 

また横の連携がないため、社会での分業が進まず、また組織内部は場にいる時間の長さで組織内部での立場が決まるため、能力による競争というものが起こりません。その代わり競争は組織体組織で発生し、同じようなことを生業としている企業が乱立、限られた市場の中でそれぞれしのぎを削ります。

 

常に「ウチ」と「ヨソ」を意識しており、自分達の組織が安定して機能している時は「ヨソ者」にはひどく冷たいという特徴も見られます。日本人が初対面の人との会話が苦手なのは、シャイという性格もあるのでしょうか、この「ウチ」しか見ないという行動様式によるものが大きいのではないでしょうか。

 

こうした社会はもちろん欠点ばかりではなく、内部の締め付けが厳しいため統制は取れているし、構成員は安定しているし、人の動員力にも優れています。
またリーダーと部下の関係ではエモーショナルな絆を重視しているので、子が親を慕うように部下は上司を慕い、親が子を思うように上司が部下に温情をかける。
日本の感情的な社会をそうした観点から見てみると、ちょっといじましいというか。積極的にその輪に入ろうとは思わないけど・・・。

 

場による社会ははっきりとした規律がないため構成員は高い緊張を強いられ、その緊張を緩和させるリラクゼーションとして内輪での無礼講があります。楽しいのは理解できるけど、それに公共の電波を使って欲しくないです。

 

日本人は感情をあまり現わさないといいますが、社会としては実に感情を重視し、人間的な繋がりに価値観を置いています。そのため、宗教的(規律があって絶対的)な社会ではなく、「道徳的」な社会になる。(でた! 道徳!)

 

他にも「日本の民主主義は『オレだって』という能力平等主義」などといった面白い指摘がたくさんあったのですが、「場」による社会構造という見方で今まで謎に思っていた現象がこんなにもよく理解できるなんて、かなり目を開かれた一冊です。

 

社会構造といったものは言語と同じように社会に深く根差しているものですから、工業化や西欧化といったことで簡単に変化するものではありません。
商売のネタになる市場が枯渇しつつある今、今後日本は「場」による社会構造で、どうやって「資格」による社会と共存していくのか。どういったところを、どのように強みにし、どういったところを変えていくべきなのか(または変えられる点はどこなのか)、意識的に考えるべきなのでしょう。

 

 

タテ社会の人間関係 単一社会の理論 (講談社現代新書)
 

 

『タテ社会の人間関係』の感想、レビュー(あられさんの書評)【本が好き!】

 

 

 

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